リチウムイオン電池とナトリウムイオン電池の違い
電気自動車に必ず必要なのが電池。その電池としては現在のスタンダードは「リチウムイオン電池」ですが、「ナトリウムイオン電池」という電池の技術も研究されています。その違いについて書いてみます。
目次
そもそもリチウムイオン電池とナトリウムイオン電池の構造は?
リチウムイオン電池とナトリウムイオン電池の違いを理解するための第一歩として、ごく簡単なそれぞれの電池の構造を書いておきます。ものすごくものすごく単純化して書くとこんな感じです。まずリチウムイオン電池。
リチウムイオン電池の構造
リチウムイオン電池にも色々あるのですが、基本的には正極がリチウム・コバルト・酸素の化合物、負極がリチウムと炭素(グラファイト)の化合物でできています。
そして放電時はどうなるかというと、こんな感じ。放電時は、正極から負極にリチウムイオンが移動し、その代わりに導線の中を電子が逆向きに移動します。
充電時は、導線に電圧をかけることで正極から負極に電子を移動させ、その代わりにリチウムイオンが負極から正極に移動します。
ナトリウムイオン電池の構造
で、次にナトリウムイオン電池。そもそもリチウムとナトリウムは化学的性質が似ています。高校の化学でみんな勉強している周期表を見てみるとそれがわかります。この周期表の上下にあるものは性質が似てるんです。下の周期表の一番左端にナトリウムとリチウムが並んでいます。ナトリウムのNaは、リチウムのLiの下にありますよね。ナトリウムとリチウムは、「アルカリ金属」という同じ仲間に分類されています。
化学的性質が似ているので、電池の構造も似ています。こんな感じ。
放電時は正極から負極にナトリウムイオンが移動し、導線の中を負極から正極へ電子が流れます。
充電時は電圧をかけて正極から負極へ電子を移動させ、負極から正極へナトリウムイオンが移動します。
リチウムは高い
ものすごく簡単な基本構造はそんな感じなのですが、リチウムイオン電池の問題点は、リチウムが高価なこと。リチウムは希少元素で高いんですよ。普通、リチウムは「炭酸リチウム」という化合物の形で取引されますが、この炭酸リチウムはザックリ言って1kgあたり500円。でも、この1kgの重さのうちリチウムが占める割合は、だいたい24%。そっから荒い計算をすると、リチウムそのものは1kgあたり2084円っつーことになります。
それに対して、ナトリウム。ナトリウムは地球上に大量にあります。しかも今現在も大量に流通しています。どこでも手に入ります。だって、ナトリウムって食塩の構成物ですから。あの、料理に使う塩ですよ。知ってる人も多いと思いますが、塩は化学的な言い方をすると「塩化ナトリウム」。塩素とナトリウムの化合物が塩なんです。
で、塩の値段。絶対ものすごく安いはずなんですけど、大規模輸出入の相場を調べられなかったんで、Amazonで売ってる食塩を参考にしてみました。日本海水の「並塩」25kgで今見たところでは1562円。
日本海水 並塩(讃岐) 25kg | ||||
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こっからガチャガチャと計算すると、ナトリウムのキロ単価は157円。ナトリウムとリチウムの原子の重さの比率を頭に入れて換算すると、リチウム1kg分と同じ原子の数を買う場合はナトリウムは450円程度になります。リチウム1kgは2084円でしたから、それでも4分の1以下ですね。
しかもこれ、食用に厳正に衛生管理している食塩の単価ですから、工業用のナトリウム目的の塩だったらもっとずぅぅっと安いはず。たぶん工業用なら10分の1とかの金額なんじゃないかな。とにかくリチウムと比べたらナトリウムはとてつもなく安いです。
リチウムの代わりにナトリウムを使いたかった、でも問題があった
リチウムは高い。そしてリチウムとナトリウムの化学的性質が似ていることは周知の事実。となれば、リチウムの代わりにナトリウムを使ってみよう、という発想になるのは科学者の方からすれば自然な考え方だったはずです。高校の化学を勉強しただけの私だってわかるレベルのハナシですから。
でも、それがなかなかうまく行かなかった。それは何かというと、負極の素材にあります。
リチウムは小さい
最初に出した画像に書いた通り、リチウムイオン電池の負極はグラファイトとリチウムの化合物になっており、放電するとグラファイトにリチウムイオンを吸着するようになっています。そのグラファイトは、構造的には炭素の壁が整然と並んでいるようになっており、そこにリチウムイオンが入っていって吸着されます。
ナトリウムはでかくてグラファイト層に入らない
でも、ナトリウムはリチウムよりも粒が大きいです。大きいので、グラファイトの層に入らないんです。そのため、初期のナトリウムイオン電池は電池容量が極端に小さいものしかありませんでした。リチウムイオン電池の100分の1とか、そういうレベルです。
ハードカーボンにしたらうまく行った!
その状況でみんな悩んでいたわけですが、最近、そこに技術革新がありました。最初に出した図の通り、負極にグラファイトではなくハードカーボンを使ってみたらナトリウムをうまく吸着できたのです。ハードカーボンは、炭素の層が整然と並ぶグラファイトと違い、ある程度の炭素の壁が乱れて存在している状態。イメージとしては下記の図のような感じでしょうか。
将来有望・・・かな?
そんなわけで、この技術革新はいろんなとこでニュースになってます。
キーワード解説:リチウムに代わる「ナトリウムイオン電池」 - スマートジャパン
現在、たとえばワゴンRのリチウムイオン電池は94500円もしています。しかも、このワゴンRのリチウムイオン電池の容量はわずか36Wh。現在、電気自動車としてまともな航続距離を持つテスラ・ロードスターの電池容量は53kWh。「k」が付いている通り、テスラ・ロードスターの電池容量はワゴンRのリチウムイオン電池の1000倍以上です。現在の日本の自動車に使われているリチウムイオン電池の容量は一般的に非常に小さく、まともに安心して走れる容量を確保するためには電池の原価が莫大なものになります。
そこにこのナトリウムイオン電池の技術革新。まずは十分な充電容量を確保できたということで、実用化に向けての第一歩を踏み出せました。まだまだこれからいろんな障壁はあるのでしょうが、これは、とてつもなく貴重な第一歩だと思います。
ちなみに、このハードカーボンを用いたナトリウムイオン電池の開発の先頭に立っているのは東京理科大学。東京理科大学偉い。ものすごく偉い。とてつもなく偉い。私みたいな泡沫ブロガーにホメられても嬉しくないだろうけど(笑)、応援してますよ!