水素供給量は足りるのか 燃料電池車普及に向けた基礎知識

トヨタが燃料電池車MIRAIを発売したのは去年の年末。個人的には燃料電池車はメジャーな存在にはならないんじゃないかなと感じていますが、そうは言っても基礎知識は身につけておきたいもの。今回は、日本のクルマが全部燃料電池車になったら、水素供給量は足りるのかを計算してみたいと思います。

燃料電池は水素と酸素を化学反応させて電気を作ります。なので、燃料電池には水素と酸素が不可欠です。酸素は空気中からいくらでも持ってこれますが、水素はどこかから持ってこなくちゃなりません。なので「水素ステーション」があるわけですね。

その水素ですが、たくさんの生産方法があります。しかし、そもそもの話として、燃料電池はエコを意図して導入されるモノです。二酸化炭素を出したり、たくさんのエネルギーロスをしてもいいなら手段はたくさんあるわけですが、水素をクリーンに調達したいと考えると、選択肢はかなり限られます。

クリーンエネルギーとしての水素を得たい場合、何らかの産業からの副産物として出てくる水素を利用することが思いつきます。水素が副産物として出てくる産業ってなんでしょう?

種類で言ったらいろいろあるんですが、安定的に大量の水素を排出する産業となるとかなり限られます。最も水素排出量が多いのは、製鉄業です。
製鉄所

製鉄所では、鉄鉱石から鉄を作っています。その製鉄所からの排出ガスに、水素がたくさん含まれているのです。

鉄鉱石から鉄を作る際、大量の炭素が必要になります。その炭素は、石炭を製鉄所内で蒸し焼きにすることで精製しています。その時に副産物として水素が出るのです。その量は約70億Nm3と推定されています。

70億立方メートル。これは、トヨタのMIRAIを8000万回満タンにできる量です。延べ走行距離にすると、530億kmくらい走れる量になります。

足りない!

この530億kmが多いのか少ないのか、簡単に計算してみましょう。日本の乗用車・トラック・バスは、合計でだいたい7700万台あります。そんで、この7700万台が、1台あたり年間5000km走ると仮定しましょう。そうすると、延べ3850億kmの走行距離になります。

副生水素生産量は走行距離換算で年間530億kmぶんで、それに対して日本で走ってるクルマの延べ走行距離は年間3850億kmです。ということは、水素が足りないですね。何らかの形で、水素を生産する必要がありそうです。

なお、もちろん副生水素が発生するのは製鉄所だけではありません。しかし、資源エネルギー庁の資料によれば、製鉄所の算出する副生水素の量は、日本全体の半分くらいを占める量であるようです。そうすると、やはり足りないです。水素が足りない。

これに加えて、水素は可燃性が高いとか、とんでもなく冷やさなきゃいけないとかってことで、運搬&保管はガソリンよりも大変です。

うーん、やっぱり水素社会って、絵に書いたモチなんじゃないの??と思っちゃいますね。まあこれは私の個人的な計算でしかないのでなんとも言えないところですが。いずれにしろ、個人的には燃料電池車はネガティブな印象だなあ。